ジュニアの時代

震災にも負けず、親子で守る

レンガ窯で焼く初代のパンの味

初代の味を守る竹内善之さん親子


神戸市東灘区岡本『フロイン堂』 竹内善之さん、隆さん親子

    
 世界に向けて門戸をいち早く開いた神戸港に、明治以降、西欧の文化がどんどん入って来た。パンもそのひとつ。そして、日本でパンを焼くようになった初期の方式のレンガ窯で今も薪を使い、初代の技と味を受け継ぎ、パンを焼き続けているジュニアが神戸にいる。東灘区岡本にある「フロイン堂」の竹内善之さん(63歳)、隆さん(33歳)親子だ。どんなに時代が変わろうとも、一切機械を使わない手作りの味を守り続けてきた。そんな2代目親子の最大の危機は1995年1月17日の阪神淡路大震災だった。今ある窯は壊れれば、2度と同じものが手に入らない。が、幸いにも、この震災でも初代が愛用したレンガ窯は生き残った。その窯を使い、今日も早朝から親子のパン作りが始まっていた…。  

神戸屈指の老舗「フロイン堂」

窯に発酵した生地を入れる
 神戸のパンの話をする時、忘れてはならない店がある。いまだに、初期の薪窯でパンを焼く店があるからだ。
 パンのルーツを見るような店こそ、地元神戸っ子に愛された「フロイン堂」である。神戸のパンの老舗「フロインドリーブ」で修行したという初代が、岡本に店を出したのは昭和7年のこと。 場所は、阪急岡本駅の改札を出て、最初の細い通りを右折する。歩いて1分足らずだが、店には看板らしきものはない。昔ながらの構えの店先に、小さく名前が出ているだけ。
それにパン屋さんといっても、朝やパンが焼き上がる前にはパンがないから、ついパン屋さんだとは思わず、通り過ぎてしまう人もいるほど。しかし、さすがに地元の人はよく知っている。パンが焼き上がる時刻には、いきなり、店に列ができるのには驚かされる。
 このフロイン堂を継いだのが、2代目の竹内善之さん。そして、十数年前から3代目もパン職人になる決意をし、親子で初代の味を守って来た。

昔のパンの味を伝えたいと2代目

 店の奥がパン工房。小さな階段を降りると、今では目にすることのない、古きよき時代の、初期の一層式の薪窯が姿を表す。
ここに薪を入れ、摂氏600度近くまで中を温めた後、燃えカスを取り出して、そこに生地を入れ220度の余熱で焼き上げるのである。そして店の横には、町中ではめったに見なくなった薪が高々と積んであった。
 この今となっては貴重で珍しい薪窯を使い、毎日のようにパンを焼いている店は全国広しといえども多分、ここだけなのだ。
 「うちのレンガ窯は一層式の、多分、日本では一番古いタイプではないでしょうか。そして、余熱でパンを焼くため、その度、温め直さなければならない。だから、どんなにがんばっても、量産は無理なのです」と語ってくれたのは、2代目の竹内善之さん。
 それでも、薪窯にこだわるのは「昔のパンの味を知る人が年々少なくなる。それだけに、昔のパンの味と作り方を残していきたいと思ったからです」。 初代の味を引き継ぐことに使命感すら感じている2代目がそこにいた。
 パン作りには厳しかった初代(父)の教えを今も守り続けている2代目。「作り方もレシピも当時のままなんです。一から十まで、すべて手作り。でも、その方法で今まできましたから、大変やとは思っていません」。
ただし「レシピはあってもマニュアルはない」と、温度も焼き加減もすべて体験で体が覚えたもの。温度計より正確なカンで、昔ながらのパンを作り続けて来た。

あうんの呼吸でパン焼く2代目親子

早朝から、親子の仕事場を覗かせていただくことになった。
午前7時半過ぎから作業は始まった。機械ならあっと言う間にできる作業も、人手なので手間暇がかかる。  昔ながらの天秤ばかりで材料を計量し、我が子を手塩にかけるように、パンの生地を作っていく親子。発酵していくパン生地を見る2代目の目は真剣でかつ、やさしい。何時間も寝かせて、ようやく生地ができると、秤で正確に計りながら型にいれていく。
 特に、重労働だと思うのは窯作業。 窯に薪をくべるのだが、薪が湿っていては火付きが悪い。そこで前以て、窯の余熱で薪を乾かしたものを使う。 夏場は窯作業中は、室温が50度近くになってしまう。冬場でもジワーっと汗のでる作業である。
 どの場面でも、2代目と3代目は黙々と作業をこなし、そしてあうんの呼吸のような息のあったところを見せてくれる。  窯の中は、薪が燃えているときの温度は600度。真っ赤に燃えている薪のカスを取り除くときには火傷にも注意しなければならない。火の粉が降って来るのだ。
 窯の中のカスをすっかり取り除いた後の温度も200度以上とすごい高温である。この中に、型に入ったパン生地を入れ、220度の余熱で焼くこと約45分。
 醍醐味は、やはり窯からパンを取り出すときである。
 パチパチと音をさせながら、ふっくら焼き上がったパンが窯から出て来る。何十年とこの作業をやっている2代目でも、この瞬間が待ち遠しく楽しみであり、この時が一番、気になる。
 パンの善し悪しは、焼き加減によって決まると言っても過言ではないかもしれない。
 型から抜いても、山食はまだパチパチという音を奏でている。「他の人から見たら味も見場も完璧に思えても、作っている方はそれでも満点だとは思えないことが多いんです」

予約で売り切れごめんの名物山食

予約殺到の香りも味も抜群の山食の列1本720円。
他に、黒パン、ライ麦パン、ぶどうパンなどもある。
 ところで、作業を始めてしばらくすると、予約電話が鳴りっぱなしとなる。 たくさん作りたくても、窯が2つだから、毎日焼けるパンの数も制限があって、人気の山形の食ぱんも150本ぐらいが精一杯。お客はそれをよく知っていて、それで予約注文をいれるのだ。 「ありがたい話です。作る前から、売れ先が決まっていくんですから。もっと作りたいという気持ちはもちろん、ありますが、150本が精一杯。買えなかったお客様にはいつも、申し訳ない気持ちになりますね」と2代目がすまなさそうに話した。
 予約だけで売り切れてしまうことが多い。店頭には今日も『予約で売り切れました』の案内がかかっていた。
 薪窯でなければもっと焼けるが、この窯に勝る窯が見当たらないらしい。 「口ではうまく表現しにくいのですが、この窯だと中からジワーッと焼けていくんですよ」。  そのフロイン堂のパンを食べた時、なつかしい味がした。素朴で心を癒すような、なんともいえない美味な味わいがあるのだ。予約してでも味わいたいと思う顧客の気持ちがわかる。

父を師と仰ぐ3代目

焼きたての山食を型から取り出す2代目
 日曜と祝日以外は、 この窯の前に立ち、 パンを焼き続ける2代目。その横で、大学卒業後、2代目の父を師と仰ぎ、同じ道をめざすキャリア十数年の3代目、隆さんがいた。
 今や2代目が安心して見ていられるようになった3代目の仕事ぶり。
 そして「パン作りのおいて、息子は私の思いもよらないことを発見する」と、3代目のパン職人としての成長に目を細める2代目。
 パン作りは家業であるとともに、その奥深さに2代目も3代目も魅せられ、後を継いだ。
 親子がパンを焼き上げる頃、うまいパンを求めて今日も、店の前は人だかりができていた。

●フロイン堂

神戸市東灘区岡本1−11−23  

078(411)6686

営業=午前8時〜午後8時(日・祝休)


協同組合大阪久宝寺町卸連盟
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